IBTA(国際脳腫瘍ネットワーク)月刊ニュースレター 2025年6月号を、JAMT(日本癌医療翻訳アソシエイツ)の皆様に和訳していただきました。ぜひご覧ください。
原文: https://mailchi.mp/theibta/jun-2025-250705
2011 年に初めて授与された Brain Prize は、基礎神経科学から応用臨床研究まで、脳研究のあらゆる分野における独創的で画期的な進展を称え、表彰するものである。デンマークのフレデリック国王は最近、2025 年の Brain Prize を、米国の Michelle Monje とドイツの Frank Winkler の 2 人の科学者兼神経腫瘍科医に授与した。彼らは、脳がどのようにして脳内でがんの発生を促進するかの解明に貢献したことが評価された。彼らの画期的な発見は、脳内の神経膠細胞の活動が乗っ取られ、がんの発生、増殖、転移、治療抵抗性が促進されることを示した。彼らの研究成果は「がん神経科学」という新たな研究分野の誕生につながり、これらのがんの理解を深めるとともに、新たな治療の可能性を提示している。彼らの貢献の詳細は、The Brain Prize で確認できる。
緩和ケアは、膠芽腫患者が病気とその治療による影響を管理するのに役立ち、例えば非小細胞肺がん患者における生存率の向上にも寄与することが示されている。しかし、膠芽腫患者の 30%未満しか病気の経過中に緩和ケアサービスを利用していない。緩和ケアが十分に利用されていない理由をさらに理解するため、Facebook のサポートグループに参加した 77 人のケアパートナーを対象に調査が行われた。主な発見として、ケアチームが患者とその家族に緩和ケアについて話し合いをした場合、緩和ケアの利用率は 71%であるが、話し合いが行われなかった場合、緩和ケアの利用率はわずか 7%であった。特に、ケアチームの一員として緩和ケアについて報告したのはケアパートナーの 3 分の 1 未満であったが、参加者は追加の支援サービスがあれば有益だったと報告したことである。この研究は、患者と家族がタイムリーかつ適切な方法でリソースとサポートを受けられるように、病気の経過全体を通して緩和ケアについて話し合うことの重要性を強調している。研究の要約は、以下のリンクから閲覧が可能である。 https://www.asco.org/abstracts-presentations/ABSTRACT504606
最近の研究は、臨床試験実施のいくつかの側面に対する機械学習効果を評価しているが、臨床試験登録に影響する因子は評価されていない。最近の研究では、機械学習を用いて、神経膠腫患者の臨床試験への登録に及ぼす臨床的、人口統計学的および社会的変数の影響を分析した。女性とマイノリティは臨床試験への参加頻度が低いことが多いため、別々に分析された。スクリーニング時に話し合われた臨床試験の数が多ければ多いほど、全体として臨床試験への参加確率が高まることが示された。女性とマイノリティに対しては、話し合われた臨床試験の数が少なかったことが明らかになった。臨床的因子は、グループ全体および女性の臨床試験登録に最も重要な影響を及ぼしたが、社会経済的因子はマイノリティの臨床試験登録に最も重要な影響を及ぼした。症状の重症度が高いことも臨床試験への参加にプラスの影響を及ぼした。本研究のために収集した情報から、神経膠腫臨床試験への登録を予測するツールを開発した。このツールは、ユーザーが入力した人口統計学的、臨床的、社会経済的特徴に基づいて、神経膠腫の患者が臨床試験に登録する確率を推定する。また、推定登録確率に最も影響を与える要因を特定し、参加確率を向上させるためのターゲットを絞った介入の提案をユーザーに提供する。
British Medical Journal 誌に掲載された最近の研究によると、避妊薬デソゲストレルの長期使用は、手術を必要とする髄膜腫の発症リスクをわずかに上昇させるようである。髄膜腫はホルモン療法を受けた女性に多くみられる。経口避妊薬は通常、妊娠に似た合成ホルモンを使用する。シプロテロンやメドロキシプロゲステロンなどの古い避妊ホルモンは、髄膜腫発生のリスク増大と関連している。今回の研究では、新しい経口避妊薬であるデソゲストレル、レボノルゲストレル、およびレボノルゲストレルとエストロゲンとの併用に関連する髄膜腫リスクが、フランスの女性 9 万人超の記録を見直すことによって評価された。デソゲストレルを 5~7 年間使用すると、髄膜腫の手術が必要になる可能性が 51%上昇したと、同研究の著者らは報告している。7 年以上の使用は、そのリスクを 2 倍以上にしている。いずれの形態のレボノルゲストレルも、手術を要する髄膜腫のリスク増大と関連していなかった。デソゲストレルに関連するリスクも、1 年以上中止すると消失した。リスクの増加は小さいが、研究結果に基づくと、特に長期間使用する場合には、避妊の選択肢について医療提供者と情報に基づいた話し合いを行うことが重要であることを示唆している。詳しくはこちらとこちら。
米国放射線腫瘍学会 (ASTRO) は最近、WHO グレード 4 の成人型びまん性神経膠腫の放射線治療に関する診療ガイドラインを発表した。このガイドラインは、神経膠芽腫に対する放射線療法に関する 2016 年のガイドラインに代わるものである。このガイドラインの変更は、標的体積、使用される技術、放射線量、および再照射の適応に関する明確化とともに、外照射療法の現代の治療レジメンを反映している。ASTRO の具体的な推奨事項には、適格患者に対するテモゾロミドとの同時 RT とその後のテモゾロミド補助療法が含まれる。条件付きで交流電場療法が推奨される。高齢患者では、条件付きでテモゾロミドとの同時および補助療法による少分割放射線療法が推奨される。フレイルな患者では、集学的かつ患者中心の話し合いの後、条件付きで支持療法および緩和ケアが推奨される。ASTRO ガイドラインはさらに、WHO グレード 4 のびまん性神経膠腫再発患者に対しては、追加の全身療法を伴うまたは伴わない適切な再照射技術を考慮してもよいと述べている。WHO グレード 4 の成人型びまん性神経膠腫患者の健康状態の違いには対応する必要がある。
University of Pennsylvania (米国) の研究者らは最近、再発性膠芽腫に対する CAR T 細胞療法の第 1 相試験の結果を Nature Medicine 誌に発表した。この研究で使用された CAR T 細胞製剤は、研究室で改変された個人の白血球から作られます。同剤は、脳腫瘍に存在する上皮成長因子受容体とインターロイキン-13 受容体α-2 の 2 つの受容体を標的とし、2 つの受容体を標的とする初めての CAR T 細胞製剤である。再発腫瘍を切除する手術後に、脳脊髄液中に直接単回投与される。その結果、残存腫瘍は 2 日以内に縮小し、この治療を受けた 13 人中 8 人でその効果が持続した。12 カ月以上追跡した 7 人の患者のうち、3 人が生存しており、そのうち 1 人は調査時に 16 カ月生存し現在も継続中である。追加投与により生存期間がさらに延長するかどうかを確認するため、次は反復投与を計画している。
OurBrainBank は、米国臨床腫瘍学会の 2025 年の会議で、米国における神経膠芽腫治療の格差を指摘した研究の結果を発表した。計 525 人の患者または介護者が、7 カ月間にわたって実施された患者経験調査に参加した。教育レベルと経済的困難がケア格差に関連していることが判明した。大学教育を受けていない患者は大学教育を受けている患者と比較して、組織保存に関する情報を受けること、組織検査を受けること、臨床試験への参加を提案されること、またはセカンドオピニオンについて話し合うこと、などの可能性について著しく低かった。経済的に困難な人および大学教育を受けていない人は、ケアに対する満足度に関しても低いと報告している。医療格差は、医療の質および医療へのアクセスに影響を及ぼす可能性がある。経済的困難に対処し、大学教育を受けていない人々のアプローチを調整することで、医療の質と医療へのアクセスを改善しつつ、格差を是正することができる。
膠芽腫腫瘍のゲノムを研究することにより、これらの腫瘍が治療に対し抵抗性である理由をよりよく理解することができる。「ゲノム」とは、腫瘍内に含まれる遺伝情報の全体を指す。Science Advances 誌に最近報告された研究において、米国のノースウェスタン大学の研究者らは、神経膠芽腫サンプルの全ゲノムを解析するために 3 次元技術を用い、神経膠芽腫ゲノムの折り畳みと構造、ならびに遺伝子発現が神経膠芽腫患者間で、さらには各患者の腫瘍内の異なる部位においても大きく異なることを見出した。この研究は、単一の標的ではなくゲノム全体にアプローチしながら、ゲノム構造と機能を潜在的に変化させることができる治療アプローチにつながる可能性がある。ゲノム解析の詳細はこちら。
南カリフォルニア大学 (米国) の Keck Medicine が実施した第 2 相試験では、テモゾロミド、免疫療法 (ペムブロリズマブ) および腫瘍治療電場療法 (TTFields/Optune) の併用により、新たに膠芽腫と診断された患者の生存期間が 70%延長し、少なくとも 10 カ月の生存期間延長が得られたことが示された。3 つの治療法間の相互作用はまだ十分に理解されていないが、本研究の著者らは、腫瘍治療野が腫瘍内に免疫応答を生じさせ、腫瘍が免疫療法に対して感受性を高めると推定されると述べている。これらの患者における血液および組織の免疫研究はこの概念を支持している。本研究では、生検を受けたが切除されなかった腫瘍を有する患者は、治療中により実質的な免疫反応を示したことも明らかになったが、これはおそらく腫瘍量が大きいためである。現在、欧州、米国、イスラエルで第 3 相試験を実施中である。3 剤併用療法の治療戦略については、こちらをご覧ください。
グレード 2 および 3 の星細胞腫および乏突起膠腫に対する手術後の放射線療法の効果については、エビデンスが欠如しているか一貫していないが、最新の臨床ガイドラインは放射線療法の使用を支持している。Neurology 誌に報告された研究では、グレード 2 の IDH 突然変異腫瘍を有する患者の特徴および全生存率を確認するため、2007~2022 年に患者 450 人のレトロスペクティブレビューが実施された。収集された情報には、人口統計学的データ、腫瘍の特徴、実施された治療と時期、および全生存期間が含まれた。術後 1.4 カ月 (中央値) に補助放射線療法が実施された。遅延照射を受けた患者の照射期間中央値は 3.3 年であった。この研究では、補助放射線療法を受けた患者の全生存期間 (144 カ月) は、放射線療法を延期した患者 (217 カ月) よりも有意に短かったことが報告された。この試験の結果から、特に IDH 阻害薬であるボラシジニブの登場により、IDH 変異腫瘍における早期照射と遅延照射の影響をさらに理解するためには、さらなる研究が必要であることが示唆される。本研究の著者らは、IDH 変異腫瘍に対する最適な治療法をよりよく理解するために、今後の研究には放射線を用いない治療群を含めるべきであると結論付けている。
BTR-NTA は、脳腫瘍の新しい治療法の開発を迅速に進めることを目的とした国際的なアクセラレータープログラムであり、産業界や学術団体に対して、(1) 国際的な学際的委員会からの最大 240 時間の専門家の意見、(2) 今後の研究と次のステップに関する独立したガイダンス、(3) パートナーシップや資金調達の可能性についての提言、を提供しています。このプログラムは Tessa Jowell Brain Cancer Mission (TJBCM) によって開始された。BTR-NTA プログラムは、英国の Brain Tumour Research からの資金提供のおかげで、世界のどこからでも研究グループが応募でき、学術機関の応募者は無料で、産業界の応募者はわずかな費用で利用できる。詳細および応募については、こちらをクリック。応募締切:2025 年 7 月 11 日
脳転移の外科的切除後の定位放射線手術 (SRS) の有益性は十分に確立されているが、術後期間中に脳内層への転移 (軟髄膜疾患として知られる) を含む追加転移が出現する可能性がある。術前についても研究されているが、患者を術前または術後の SRS に無作為に割り付けた研究は実施されていない。これは米国 MD Anderson の単一施設研究であり、患者は術前または術後の SRS に無作為に割り付けられた。術前 SRS は実施可能であり、手術を遅らせることはなく、毒性に群間差は認められなかったことから、術前 SRS が完了するまで手術を遅らせることで患者が苦しむことはないことが示唆された。術前群の方が術後群よりも多くの患者が放射線治療を完了し、全ての治療 (手術と放射線) を完了するまでの時間は術後群の方が長かった。本研究のさらなる結果は現在進行中である。最初のレポートはこちら。
Plus Therapeutics, Inc は、米国 FDA が、再発性、難治性、または進行性の高悪性度神経膠腫および上衣腫を含む治療困難な脳腫瘍の小児を対象とした同社製品、レニウム-186 obisbemeda の第 1 相試験の治験薬 (IND) 申請を承認したことを発表した。この製品は、腫瘍領域に直接投与することによって高線量放射線を照射するように設計されており、周囲の発達中の脳への曝露を制限しながら、現在可能な放射線量よりも高線量の放射線を照射できる可能性がある。RESPECT-PBC として知られる同研究は、米国で間もなく開始される予定である。
Radiopharm Theranostics のニュースリリースによると、FDA は、脳転移における再発性疾患と治療効果を識別するための新規造影剤 RAD101 のファストトラック指定を付与した。RAD101 は PET スキャン中に使用される造影剤であり、固形腫瘍で過剰発現していることが見出されている酵素である脂肪酸合成酵素 (FASN) に結合するように設計されている。ファストトラックの指定に至った研究では、前治療および未治療の脳転移において、腫瘍のサブタイプを問わず RAD101 の高い取り込みが認められた。放射線壊死、疑似増悪、および腫瘍進行をよりよく区別できるようにするために、脳転移に対してより高い診断精度を提供することを期待する第 2b 相試験が進行中である。ファストトラックの指定により、FDA とのやり取りの増加、データの段階的提出、優先審査が可能となり、承認までの時間が短縮される可能性がある。
10 月
国際脳腫瘍啓発週間
2025 年 10 月 25 日~11 月 1 日
世界中の脳腫瘍患者支援団体と共に、脳腫瘍の啓発活動に参加しましょう。
7 月
第 1 回コールドスプリングハーバー研究所 脳腫瘍研究と治療の進展に関する会議
2025 年 7 月 17 日~20 日
コールドスプリングハーバー, NY 11724, 米国
第 5 回神経腫瘍学の年次更新講座 – ハ-バード医科大学 CME コース
2025 年 7 月 23 日~25 日
ライブオンライン
8 月
2025 年 SNO/ASCO CNS 転移会議
2025 年 8 月 14 日~16 日
メリーランド州ボルティモア、米国
10 月
欧州神経腫瘍学会(EANO)第 20 回総会および教育デー
2025 年 10 月 16 日~19 日
チェコ共和国、プラハ
11 月
神経腫瘍学会と世界神経腫瘍学会連合
2025 年 11 月 19 日~23 日
ハワイ州ホノルル
プログラムの変更がある場合、出発前に会議主催者と日程や参加に関する詳細を確認してください。
2025 年または 2026 年に開催される患者や脳腫瘍に関する支援イベント、または科学会議(オンラインまたは対面形式)を主催またはご存知の場合、または上記の一覧の変更をご存知の場合は、kathy@theibta.org までメールでご連絡ください。
今後の科学会議やイベントの最新情報は、IBTA ウェブサイトのカレンダーページ(こちら)でもご確認いただけます。
国際脳腫瘍ネットワーク(The International Brain Tumour Alliance:IBTA)は 2005 年に設立されました。各国の脳腫瘍患者や介護者を代表する支援、提唱、情報グループのネットワークであり、脳腫瘍の分野で活躍する研究者、科学者、臨床医、医療関係者も参加しています。詳細は www.theibta.org をご覧ください。
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翻訳: 三宅 久美子
監修: 夏目 敦至/名古屋大学未来社会創造機構・特任教授
河村病院・脳神経外科・部長
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